ガラス作家 中村 真紀さんの工房を訪ねて

ガラス作家 中村 真紀さんの工房を訪ねて
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京都にある中村 真紀さんの工房であるMaki glass studioにお邪魔し、工房見学と共にお話を伺う機会をいただきました。

工房は、以前ご両親が建築デザインの事務所として使われていた場所を引き継ぎ、改装して使われており、通してくださったお部屋にはお父様が手掛けた住宅の資料やうつわの本、ご友人の方々の素敵な作品が飾られており、中村さんの「好き」が詰まった空間でした。


-ガラス作家になられたきっかけ-

ご両親が建築関係のデザインをされていたことや、ご親戚やご両親の友人に芸術家やモノづくりに携わる方が多く、楽しそうに創作活動のお話をされる様子を小さな頃から見ていたそうです。
そういった影響もあり、自然な流れで高校時代から芸術系の進路を考えていましたが、ある日、渋谷良治さん(元富山市ガラス美術館長)のガラスオブジェを鑑賞した際、身近なガラスという素材で作られたオブジェ作品に衝撃を受け、ガラス作品に強く惹きつけられた事がガラス作家としての道を歩まれたきっかけです。

-ガラス作家になるまで-

ガラス作品に興味を持ったものの、90年代当時、京都ではガラス作品を学べる大学がなく、また簡単に調べられるようなシステムも普及していなかったため、お父様の卒業校でもあり、身近な存在である京都市立芸術大学の美術学部工芸科陶磁器専攻にて陶磁器を使ったアート作品について学ばれます。
しかしながら、やはりガラス作品に興味を抱いていた中村さんは、大学在学中に休みを利用し、能登のガラス工房にて短期間ガラス作りを学ばれました。ガラス作りの難しさを体感し、生半可な気持ちではガラス作品はできないと痛感しましたが、大学4年生の卒業間近、先生より富山ガラス造形研究所が新設されたという情報が入り、ガラスに対する思いが再熱、入所されました。

富山ガラス造形研究所の学生時代は、ガラスについて一通り学ばれたそうですが、作品はオブジェを中心に制作されていたそうです。

うつわの技術を磨かれたのは、卒業後、富山ガラス工房へ就職してから。
「送迎会の時期になると、贈答用として何十個と同じうつわの注文が入るんです。その為に、短期間で同じ形状で同じ大きさのうつわを作る必要があり、毎日毎日制作し続けることで、そういった技術が磨かれていきました。」

工房の任期(3年制)終了後は、フリーで全国のガラス窯を借りながら制作し、展示会で作品を発表するという活動を5年ほど続けた後、京都に戻られ、ガラス工房の立ち上げを決意されました。

-ガラス工房立ち上げまで-

独立を決意した当時、ガラス窯を個人で購入するにはかなりハードルが高かったことから、自分で窯を作るため、京都府内でガラス作家として活動されていた荒川尚也さんにお願いし、ガラス窯作りの研修をしていただいたそう。
中村さんはこの時既にフリーとして展示会で作品を発表していた為、お弟子さんとしてではなく、特別に窯づくりだけ学びに荒川さんのガラス工房に通い教えていただいていたそうです。
「本当に感謝しています。足を向けて寝られない」とおっしゃっていました。

【制作活動と設備について】
「ガラス作品の制作は、半分は作品自体に、もう半分は設備管理に時間や労力を費やす必要があります。」
見せていただいた中村さんの工房にある3つ炉は、当初全て中村さんが作られた灯油の炉でしたが、リーマンショックによる燃料高騰や異常気象による逆流により、一部電気窯に変更されました。
一見美しい作品だけ見ると、そのような問題とは無関係に見えますが、ガラス作品制作の上で重要なのは、設備の管理だそうです。
日々の設備のメンテナンスの他、世界情勢・気候変動などの環境の変化にその都度柔軟に対応し、設備を更新しながらもガラス作品を作り続けていらっしゃる中村さん。
とても気さくで柔らかいお人柄でいらっしゃいますが、その裏には様々なご苦労を乗り越えて作品作りに励まれておられる姿勢があり、改めてその熱意を感じました。

-作品のインスピレーションの源-

意外にもガラス作品からというより、陶芸や他の素材の展示会に行った際にインスピレーションが湧くそうです。
「こういったモノをガラスで表現するとしたら?」
「自分であればどう落とし込む?」
と考えご自身の作品に生かしたり、

料理を盛り付けたり、食事に行った際に、
「この料理を盛り付けるとしたらどういった器が素敵かな?」
と実際に使う場を想定して作品を考えられているそうです。

「作品が美しいだけではなく、料理が映えるうつわ、テーブルに並べた時の他のうつわとの兼ね合いや扱いやすさも考慮した作品作りを心掛けています。」とおっしゃられていました。


◎最後に、お客様にどのように使っていただきたいかお聞きしました。

「自由に愉しんで使っていただければと思います。
作り手が思いもしなかった素敵な使い方をして下さるお客様もいらっしゃり、こちら側の学びになります。
ご購入して下さった方が、思い思いの用途で愉しんでいただければ嬉しいです。」